複数の管理権原者で構成される高層建築物、地下街、複合用途の建物等では、建物全体で相互協力する体制がないと、火災の時に混乱をまねき、避難上の問題を生じ、大惨事に至ることがあります。
統括防火管理制度は、建物全体の一体的な防火管理を行うために建物の全ての管理権原者が協議して、建物全体についての防火管理上必要な業務を統括する統括防火管理者を選任し、全体についての消防計画を定め、それに基づく建物全体の訓練・防火管理上必要な業務を行うものです。
共同防火管理者制度からの見直し
昭和43年に「共同防火管理者制度」がはじまりました。
1つの建物に複数のテナントが入り、防火に関して管理権原が分かれている場合、それぞれのテナントが防火管理に熱心であっても、協力体制がなければ災害時に混乱をまねきます。
連携のとれた防火管理体制を構築するために共同防火管理者制度
平成26年4月1日に「統括防火管理者制度」へと見直しされました。
- 統括防火管理者の選任を消防法に規定
- 業務・役割の明確化
- 各防火・防災管理者への「指示権」の付与
統括防火管理者制度
選任が必要な対象物
次のいずれかに該当する防火対象物で、管理について権原が分かれているもの
- 高層建築物(高さ31mを超える建築物)
- 避難困難施設(消防法施行令別表第一(6)項ロの施設)が入っている防火対象物のうち、地階を除く階数が3以上で、かつ、収容人員が10人以上のもの
- 特定用途の防火対象物のうち、地階を除く階数が3以上で、かつ、収容人員が30 人以上のもの(消防法施行令別表第一(6)項ロの施設を含む防火対象物を除く。)
- 非特定用途の複合用途の防火対象物のうち、地階を除く階数が5以上で、かつ、収容人員が50人以上のもの
- 地下街のうち消防長又は消防署長が指定するもの
- 準地下街
統括防火管理者の資格を有する者であるための要件
防火管理者と同様に防火管理講習修了者等の資格を有している者で、防火対象物全体についての防火管理上必要な業務を適切に行うために必要な権限及び知識を有するものとして、以下の要件を満たすものです。
- 管理権原者から防火管理上必要な権限が付与されていること
- 管理権原者から必要な業務の内容の説明を受けており、かつ、十分な知識を有していること
- 管理権原者から防火対象物の位置、構造、設備の状況等の事項について説明を受けており、かつ、当該事項について十分な知識を有していること
統括防火管理者の責務
- 「全体についての消防計画」の作成・届出を行うこと
- 「全体についての消防計画」に基づく、消火、通報及び避難の訓練の実施
- 防火対象物の廊下、階段、避難口その他の避難上必要な施設等の管理
- 必要に応じて管理権原者に指示を求め、誠実に職務を遂行すること
統括防火管理者の指示権
統括防火管理者は、統括防火管理の業務上必要があると認めるときは、各防火管理者に対して必要な指示をすることができます。
全体についての消防計画
消防計画は、防火管理が義務となる防火対象物及び各テナントの防火管理者が作成します。
しかし、統括防火管理者の選任が義務となる対象物では、管理権原の及ぶ範囲が不明確であったり、訓練も部分的なものに留まりがちです。
このため、「全体についての消防計画」では、管理権原の範囲を明確にし、防火対象物全体の総合的な訓練の実施などを定めることを義務付けています。
記載する事項
- 防火対象物の管理権原者の当該権原の範囲
- 防火対象物の全体についての防火管理上必要な業務を一部委託した場合、受託者の氏名、住所、受託者の行う防火対象物の全体についての防火管理業務の範囲・方法
- 防火対象物の全体についての消防計画に基づく消火、通報及び避難の訓練その他防火対象物の全体についての防火管理上必要な訓練の定期的な実施
- 廊下、階段、避難口、安全区画、防煙区画その他の避難施設の維持管理及びその案内
- 火災、地震その他の災害が発生した場合における消火活動、通報連絡及び避難誘導
- 火災の際の消防隊に対する当該防火対象物の構造その他必要な情報の提供及び消防隊の誘導
- 上記に掲げるもののほか、防火対象物の全体についての防火管理に関し必要な事項
各防火管理者の作成する消防計画は「全体についての消防計画」に適合させなければなりません。
管理の権原を有する者の当該権原の範囲
防災管理者が必要な防火対象物で、管理について権原が分かれている場合は、全ての管理権原者が協議して、統括防災管理者を選任し、全体についての防災管理に係る消防計画を定め、それに基づく建物全体の避難訓練・防災管理上必要な業務を行う必要があります。
防災管理
大規模地震の発生が切迫していると指摘されているため、地震発生時の対応力強化を図るために平成19年6月に始まった制度です。
防火管理は「火災」対策で防災管理は「地震・テロ」対策です。
防災管理が必要な建物
地階を除く階数 | 延べ面積 |
11階以上 | 10,000㎡以上 |
5階以上10階以下 | 20,000㎡以上 |
4階以下 | 50,000㎡以上 |
地下街 | 1,000㎡以上 |
共同住宅、格納庫、倉庫、準地下街、アーケード、山林、舟車は該当しない
上の表に該当する建物は防災管理者を定め、自衛消防隊を設置し、防災に係る消防計画を作成します。
管理権原が分かれている場合は、統括防災管理者を選任し、全体についての防災計画を作成します。
大規模地震等の発生時には、消防力を超えた被害が生じることもあります。
そのため、大きな事業所の自衛消防能力を向上させ、被害を最小限に食い止めようという制度です。
コメント