無窓階(むそうかい)とは漢字を読んだままで理解しようとすると、窓が有るか無いかと思ってしまいます。
しかし、消防法の無窓階は消火活動や避難のとき、有効に使える開口部が、その階に必要な面積有るか無いかで判定して普通階か無窓階かに分類されます。
「無窓階」の反対語は有窓階ではなくて「普通階」です。
建築物の地上階のうち、総務省令で定める避難上又は消火活動上有効な開口部(窓やドアなどのこと)を有しない階のことを「無窓階」と言い、 「無窓階」に該当すると通常の階と比べ厳しい規制を受けてしまいます
無窓階については消防法施行令第10条第1項第5号に登場して、消防法施行規則第5条の3に詳細が書かれています。
テナント入居時や開口部も含めた改築をする際には事前に所轄の消防署へ相談をした方が、査察時に指導を受けて改修する必要が出るなどのトラブルにならないでしょう。
この記事では、消防法で定められている無窓階について説明します。
無窓階と普通階はどうやって判定するのか
無窓階に該当するかどうかは、10階以下と11階以上で判定方法が異なります。
それぞれ見てみましょう。
11階以上の場合
消防法施行規則第5条の3第1項を分かりやすく書き直すと、「11階以上の階は直径50cm以上の円が内接できる開口部の面積が、その階の面積の1/30を超えないと無窓階に該当する。」
開口部の面積が階の面積の1/30を超えると普通階です。10階以下のときにも、この普通階は出てくるので覚えておきましょう。
消防法施行規則第5条の3第2項に、追加条件が記載されています。
つまり直径50cm以上の円が内接できる開口部の面積が床面積の1/30を超えて、以下の条件をクリアできれば普通階に該当するってことです。
- 床面から開口部の下端までの高さは1.2m以内であること。
- 開口部は、格子その他内部から容易に避難することを妨げる構造を有しないものであり、かつ、外部から開放し、又は容易に破壊することにより進入できるものであること。
- 開口部は、開口のため常時良好な状態に維持されているものであること。
図にすると以下のイメージです。左側の開口部の面積が階の面積の1/30以下だと無窓階に該当します。
11階以上の階は境界線が1メートル未満でも関係ない。
50センチ以上の円が内接出来るかが鍵となる。
10階以下の場合
11階以上の階は有効開口部の面積を足せば良いだけでしたが、10階以下の場合は少し面倒くさくなっています。
消防法施行規則第5条の2第1項を分かりやすく書き直すと、「10階以下の階は普通階でかつ、直径1m以上の円が内接できる開口部か、幅・高さがそれぞれ75cm以上、1.2m以上の開口部が2つ以上ない場合は無窓階に該当する。」
直径50cmの円が内接する開口部がどれだけ有っても、大型開口部が2つ以上ないとダメってことです。
消防法施行規則第5条の3第2項に、追加条件が記載されています。
- 床面から開口部の下端までの高さは1.2m以内であること。
- 開口部は、道又は道に通ずる幅員1m以上の通路その他の空地に面したものであること。
- 開口部は、格子その他内部から容易に避難することを妨げる構造を有しないものであり、かつ、外部から開放し、又は容易に破壊することにより進入できるものであること。
- 開口部は、開口のため常時良好な状態に維持されているものであること。
11階以上の場合と違うのは幅員1m以上~の部分が増えています。
図にすると以下のイメージで、11階以上の条件に大型開口部が2つ以上必要なのと、開口部の外に1m以上の通路や空地がないと窓が有っても算定できません。
10階以下の1m以上の通路空地についてです。
道路の反対側は1m以上の空地なのにダメなのか?
道路の反対側は1m以上の空地ですが、道路に至る通路が0.9mしか無いので認められません。
消防本部によっては低い花壇等は、消火活動や避難に支障が出ないと判断される場合もありますが、基本的には1m以上の通路幅がないとダメだと覚えておきましょう。
開口部の構造はどんな物でも良いのか
無窓階、普通階に該当するのかを面積と周囲の通路幅などで確認しました。
次は開口部の構造を見ていかなければなりません。
何故開口部の構造を見る必要があるかと言うと、ガラス窓でもガラスの厚み種類によっては有効開口部として算定できない場合があるからです。
東京消防庁の基準
東京消防庁が基準としているものを元に、だいたいの消防本部が基準を作成しているので、東京消防庁が定めているガラスの種類による取扱いを見てみましょう。(一部省略して記載)
普通のガラスであれば、消防隊が破壊するための足場(床)がなくても有効開口部として算定できますが、網入りガラスや合わせガラスになると条件が厳しくなっています。
表を見ると、引き違いは良くてFIXはダメな物が多いことに気がつくと思います。
それは引き違いの場合だと、鍵の部分を破壊して窓を開けることができますが、FIXは開けることができないからです。
網入りガラスはどうして1/2なのか
網入りガラスや線入りガラスの「引き違い」はどうして算定基準が1/2だと思いますか?
それは窓等の一部を破壊することは出来ても、すべて破壊することが困難だからです。
時間をかければすべて破壊することも可能でしょうけどね・・・消火や救助活動は1分1秒が鍵を握ることもあるので、破壊活動は簡単に出来た方が良いのです。
開口部周囲の状況によっては大きさが有ってもダメ
ガラスの大きさは1m以上の円が入るし、普通ガラスで厚みも6ミリ以下なのに有効開口部として算定されない場合もあります。
一例を紹介します。
吹き抜けの位置にある
普通に考えたら分かることですが、消火や避難のために必要な窓なのに吹き抜け部分に設置されていたら使えないですよね。
常に出入りできない箇所にある
極端な例ですが、外から見ると窓がたくさん有るように見えるのに、間仕切り壁などで開口部に行き来できないようになっている場合は有効開口部として認められません。
テナント入居後の改装を勝手にして無窓階状態になることがあります。
筋交いや落下防止柵がある
建物の耐震性を確保するために後から筋交いを入れる場合もあります。その際に開口部前をどうしても通す必要が有った場合注意が必要です。
また、窓からの落下防止用に手すりなどを設置した場合も、手すりの位置が1.2mを超えると窓全体が算定できない状況になります。
手すり等の高さは建築基準法で1.1m以上となっているので、わずか10cmの間に手すり等の高さを調整しないくてはいけませんね。
無窓階に該当すると何が厳しくなるのか
無窓階に該当すると消防用設備の設置基準が厳しくなります。
消火器や屋内消火栓、自動火災報知設備などの消防用設備は通常であれば、建物全体の面積に対して設置の可否が決まります。
しかし無窓階に該当すると、その階の面積によって設備の設置が必要になってくるのです。
消防用設備が厳しくなる例
準耐火構造2階建ての事務所だと想定します。
普通階であれば延べ面積300平方メートル以上から消火器を設置したら良いのが、無窓階になると50平方メートルから必要になります。
屋内消火栓は400平方メートル以上で設置、自動火災報知設備は300平方メートル以上で設置義務となるのです。
たかが窓1つと思って改築したら、無窓階に該当してしまって設備を設置しないといけなくなる可能性があるので、改築などする場合には事前に相談することをオススメします。