テナントビルを所有していて、ある日突然消防署から特定一階段等防火対象物に該当するので必要な措置をとってください。と通知が来たとします。
いきなり特定一階段等防火対象物に該当するって言われても意味が分からないと思うので、特定一階段等防火対象物(通称特一)について解説しようと思います。
この記事を読めば特定一階段等防火対象物がどのような建物なのかが理解でき、ビルオーナーだけでなく、若い消防士の教養にもなるかと思います。
特定一階段等防火対象物とは何か
平成13年の新宿歌舞伎町の雑居ビル火災で多くの方が亡くなったのを契機に定められました。
歌舞伎町のビルは避難するための階段が屋内の1箇所しかなかったこと、避難階段に雑品が多く置かれていたことなどが被害が大きくなった原因と言われています。
令和3年の大阪市で発生した雑居ビル火災も屋内の避難階段が1箇所しかない建物でした。
避難階段が屋内の1つしか無い
地下階、3階以上の階に特定用途があり、その階から避難階に至る階段が屋内の1箇所しかない建物です。
つまり特定用途部分から、避難階まで直通の屋内階段が1箇所しかない建物は、地下階や3階以上の階に特定用途がテナントとして入居すると特定一階段等防火対象物に該当するってことです。
特定用途とは、消防法施行令別表第一に記載されている・・・と言っても難しいと思うので、飲食店や販売店、病院や福祉施設などが該当してきます。
特定用途としては・・・
集会場、カラオケ店、風俗店、飲食店、販売店、ホテル、病院、福祉施設、保育園、幼稚園などの施設が該当します。
雑居ビルなどで特定一階段等防火対象物に該当するケースで多いのが飲食店がテナントとして入るパターンです。
主に不特定多数の人が出入りする用途ですね。
うちのバーは会員制なので不特定多数の出入りは無いけど・・・
会員制でも飲食店は特定用途に該当するので関係ありません。
特定一階段等防火対象物に該当する例
①は3階に飲食店があり、避難階段が屋内の1箇所にしか無いので該当します。
②は①と同じように地下階に飲食店があり、避難階段が屋内の1箇所なので該当します。
③は屋外階段も有るので3階の飲食店は特定一階段の要件に該当しませんが、地下階が該当します。
④は屋内階段が2箇所有るので該当しないと思いがちですが、AとBのテナントは壁で隔てられて行き来が出来ないため、3階テナントはAとBは避難階段が1箇所となります。
行き来が出来ても避難上有効な開口部として法令で定める基準に適合していなければダメです。
エレベーターがあったとしてもエレベーターは避難施設として認められないので、屋内階段が1箇所だと特定一階段防火対象物に該当します。
また、エレベーターは自動火災報知設備の起動と同時に基本的に一番近い階で停まるようになっているので、避難は階段を利用することになります。
地下階や3階以上が倉庫や事務所でも特定一階段防火対象物に該当する場合もある
屋内階段が1箇所しかない地下階や3階以上を特定用途ではない倉庫や事務所として使用するなら、問題ないと思われるかもしれませんが、ダメな場合もあります。
図は3階を店舗の事務所として使用している例ですが、この場合だと事務所は店舗の用途で使用するため特定用途となります。
そのため特定一階段等防火対象物に該当することになるのです。
今回の場合だと建物用途は全体が販売店(消防法施行令別表第一 4項)となります。
レアケースだと該当しない
なかなか該当するような建物は無いと思いますが、避難階段が屋内に1箇所しかなく3階に特定用途が有ったとしても、3階から渡り廊下などで直接避難できる場合は特定一階段等防火対象物に該当しません。
他の建物と接続すると消防用設備の増設や建築基準法等の違う法律が関わってきますが・・・
特定一階段等防火対象物に該当するとどうなるのか
特定一階段等防火対象物に該当すると、消防用設備の変更や消防署へ提出する報告書が増えます。
つまりビルオーナーの場合、特定用途が入ったために出費が増えるということになるのです。
屋内に階段が1つしか無い場合はテナントが入る際は事前に確認する必要がありますね。
自動火災報知設備の強化
特定一階段等防火対象物に該当した場合、自動火災報知設備の設置が面積に関係なく義務になります。
元々自動火災報知設備が設置されていた場合でも、受信機(火災信号を受け取り表示する機械)を再鳴動式と言ってベル(サイレン)が鳴っているのを停止させても数分後に再び鳴り出す機能がある物に取り替えする必要があります。
階段室の竪穴区画に設置する煙感知器も、垂直距離7.5メートルに1個以上設置する必要があります。該当しなかった場合15メートルごとで良かったものが半分の距離になるので感知器を増設する必要があります。
避難器具の強化
避難器具は屋内階段が1箇所しかなく逃げ遅れが発生する可能性が高いことから特に重要になってきます。
①~③の中から選んで設置しないといけません。④は必ず必要です。
- 安全で容易に避難できる構造(木造はダメ)のバルコニーなどに避難器具を設置する。
- 避難器具が常時、容易かつ確実に使用できる状態にある。常時なので壁に固定されたハシゴや滑り台、滑り棒などが該当します。
- 1動作で確実に作動する避難器具を設置する。窓を開けたり、避難器具のロックを解除する動作は除きます。
- 避難器具の設置が分かるように表示を強化する。
①避難器具の設置
マンションなどのベランダやバルコニーに有る避難器具と同じです。ただし避難ハシゴは穴を開けたり溶接の必要が有るので後付は現実的でないでしょう。
②常時使用可能な避難器具を設置
固定式のハシゴ、固定式のタラップ、滑り台、登り棒を常時使用可能な状態で設置しておく必要があります。常時使用可能な状態なので防犯対策は必須になるでしょう。
③1動作で作動する避難器具を設置する
通常はこの③が一番設置しやすいのかと思います。
1動作式の避難器具も緩降機やハシゴ、救助袋など種類が有るので、設備士と相談して設置します。
④避難器具の設置を分かりやすくする
避難器具が設置されている場所や出入り口に避難器具が設置されていることが容易に分かるように表示をしないといけません。
避難器具を設置している場所に避難器具だとすぐに分かるように表示と取り扱い方法を掲示する必要があります。
避難器具が設置されている階のエレベーターホールや階段室には避難器具が設置されている場所を示した図を掲示しないといけません。
防火対象物定期点検報告が必要となる
3階以上の建物で特定用途があるなら、ほぼ100%収容人員は30人以上だと思うので防火対象物定期点検の報告が必要になってきます。
収容人員が30人以上にならないなら不要です。
消防用設備の点検とは違い、防火対象物(建物)の防火に関する点検です。
点検は法令で防火対象物点検資格者に依頼する必要があり、建物が防火管理上適切に維持管理されているかを点検・報告させるものです。
特定一階段等防火対象物まとめ
特定一階段等防火対象物とは地下階または3階以上の階に特定用途が有った場合に、避難階までの直通階段が屋内に1つしかない建物が該当します。
消防用設備の増設や変更、防火対象物の点検報告が必要となってきます。
もともと防火管理者が選任されているなら問題ありませんが、収容人数によっては防火管理者の選任と消防計画の作成が必要になります。
テナントの管理権原者が複数居る場合は、統括防火管理者を選任する必要も出てきます。
地下階や3階以上の階に特定用途が入らなければ特定一階段等防火対象物に該当しないので、特定用途は1階や2階に入ってもらえば特一に該当することを回避できますよ。